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森の腐植土と鉄、海との関係

植物プランクトン・海藻と鉄の関係
 海水中における植物プランクトンや海藻を増やさなければ、それを食べたり、産卵場所としたりする魚介類は増えてこない。
 植物プランクトンや海藻は、基本的に二酸化炭素(炭酸ガス)と水と太陽光で成長、増殖する。それに加えて、窒素とリンが必須成分である。海水中で、窒素は安定した硝酸塩として存在し、リンはリン酸塩という無機の形態で水中に溶存する。これらは、植物プランクトンや海藻を構成するのに必要なたんぱく質、ATP(アデノシン三リン酸)などを合成するのに不可欠な成分なのである。
 ここで、藻類(植物プランクトン)や海藻がこの硝酸塩を体内に取り込むためには、先行して鉄をとりこまなければならない。なぜなら、藻類や植物プランクトンがその体内に硝酸塩を取り込むと、これを還元しなければならないため、その還元には、硝酸還元酵素が必要となり、鉄はこの酵素に大きく関与しているからだ。
 その他に、光合成を行う生物には、クロロフィルなどの光合成色素が不可欠なのだが、これらの合成にも、鉄は非常に大きく関与しており、鉄なしではこれらの色素は合成されない。このことは、陸上の植物でも同様であり、例えば植木の土壌に釘をさしたりするが、これは、鉄分を供給するという意味において理にかなう。

森の腐植土と鉄の緊密な関係

(1)鉄は大きな粒子
   樹木は根から水分や栄養素を吸収し、葉から二酸化炭素を取り込む。その一方、昆布などの海藻の根は    単に葉の部分(葉体)を支えるだけで、葉から栄養素を吸収している。
   植物プランクトンやコンブなどの海藻は10マイクロメートル(0.01ミリ)程度の細胞(膜)を通して直接海水   中の栄養素を取り込んでいる。海水中では、鉄以外の元素や化合物はほとんどが水に溶解したイオンであ   り、イオンは細胞膜を容易に通過する。生物が生きるためには、水銀以外のすべての元素が必要になるが   、鉄以外はすべてイオンで簡単に生体内に取り込むことができる。ここでいうイオンとは、水に完全に溶け   た状態を意味しており、非常に小さく肉眼ではもちろん顕微鏡でもこれらを見ることはできない。

   ところが、海では鉄はイオンではなく、粒子の状態で存在している。そうして鉄は藻類、海藻に不可欠な元   素であるにもかかわらず、大部分がこれらの細胞膜を通過できない大きな粒子なのだ。

(2)極微量の鉄イオン
   鉄は光合成に不可欠な元素であるのに、一方で細胞膜を通過できない粒子であるということは、矛盾して   いる。この矛盾は次の説明で理解される。
   海水中の鉄は大部分が粒子の状態で存在するが、極微量にOH基と結合した鉄イオンも存在する。実は、   このイオンをプランクトン、海藻は取り込んでいる。このイオンは粒状鉄と平衡で水に溶解していて、このイ   オンが海藻などに摂取されると、平衡がくずれて粒子がイオンに変わる。ただし、重要な点として、この平    衡に到達するまでに極めて長い時間がかかる。一度この鉄イオンがなくなってしまうと、10日以上かから    ないと元のイオン濃度に回復しない。粒状鉄濃度が高ければ高いほど、短期間でイオンを供給できるが、    日本海の磯焼け地帯などでは、この粒状鉄濃度が1マイクログラム(1リットル当たり100万分の1グラム)   以下で外洋水と同様極めて低く、元にもどるまで10日以上かかるのである。
   ここで森林において、鉄の供給は 岩石の物理、化学的風化によって河川に流入する鉄はほとんど期待で   きず、生物的(微生物)風化作用が重要となってくる。

(3)鉄の供給源
   海の光合成生物に影響を与える鉄の供給源はどこから来ているのだろう?
   腐植土層において、部分的に枯葉などの分解で酸素が消費され、酸素のない部分が形成される。ここで、   酸素のないところでの鉄はイオンとして存在できるのである。

   例えば、地下水(井戸水)を汲み上げ、しばらくすると水が赤褐色に変色することがある。この赤褐色は鉄    の粒子である。酸素を含まない地下水では鉄はイオンとして存在しているが、この地下水が空気(酸素)に   触れると鉄イオンは粒子に変化し、赤褐色になる。
   腐植土層において枯葉などが分解されるとき、完全に分解されてしまうと二酸化炭素と水になるが、バクテ   リアが分解しきれない有機物が残り、これが、水に溶けている。この残った有機物が化学的、微生物的変    化を受け、腐植物質という有機物ができる。

   腐植物質は水に溶けるフルボ酸と水に溶けないフミン酸に分けられる。フルボ酸はカルボキシル基(−CO   OH)やカルボニル基(−C=O)などを有しており、鉄など多くの金属を結びつける機能がある。無酸素部    位で生成した鉄イオンはこのフルボ酸と結合するのである。

   フルボ酸と結合した鉄は森林から河川へ運ばれるが、河川では空気、即ち酸素に触れることになる。鉄イ   オンの場合は鉄粒子に変わるが、フルボ酸鉄は一度結合してしまうと極めて安定しており、離れることはま   ずない。

   腐植土層の鉄は枯葉にも含まれており、枯葉の分解により、腐植土中に再生される。針葉樹と広葉樹の単   位重量当たりの鉄量は、一般に広葉樹のほうが針葉樹よりも一桁高い。フルボ酸とうまく結合できなかっ    た鉄イオンも存在するわけだが、これは粒子に変わって河川に運ばれる。ただしこの鉄は幾分水に溶ける   形態の鉄であり、水に溶けない鉄の酸化物(ゲータイト)とは異なるものと考えられている。

   以上のように、腐植土中のフルボ酸と鉄は強い絆で結ばれ、河川を通し、あるいは海岸まで森林が迫って   いる場合には、山の森林地帯から直接海に運ばれて流れ込んでいると考えられる。