宇和海の環境と、産業の共生をめざして
沿岸海洋環境改善対策としてのコンブ養殖
磯焼けと赤潮の一対策
磯焼け とは?
「磯やけ」という用語は、海藻学者で著名な遠藤吉三郎博士(1902)が、静岡県伊豆東海岸のテングサ漁場の荒廃を見て、その場所をあらわす言葉として用いたことに始まる。元来、地元民の間でも「磯焼け」「磯枯れ」という言葉を使用していたようで、これらを定義すると「ある特別な沿岸の一海域を限って、そこに生息する海藻の全部または、一部が枯死して不毛となり、有用海藻はもとより、これによって生息するアワビ、磯付き魚などの収穫を減少せしめ、あるいはこれを失い、そのため漁村の疲弊をきたすこと」とした。
一般には、「磯焼け」とは、海藻の繁茂していた沿岸の岩礁地帯が、何らかの原因によってその海藻が枯死または、消滅し、代わりに石灰藻と呼ばれる種々のサンゴモ(紅藻類)に海底が占有されて、岩盤が白色または黄色・ピンク色を呈する状態をいう。
磯焼け発生による漁業被害
磯焼けが発生すると、次のような漁業被害が発生する
@磯焼けによる藻場・海中林の消滅で、魚類の産卵場・幼稚仔育成場、生理系の破壊につながり、漁業資源全体に悪影響を及ぼす。
Aアワビ・ウニ・サザエなどの藻食性貝類およびスズメダイ科・ニサダイ科・アイゴ科・などの藻食性魚類の資源に悪影響を及ぼす。
Bコンブ・ワカメ・テングサなど食用海藻資源が衰退し、漁業者に大打撃を与える。
磯焼けの原因
磯焼けの原因は大別すると藻食動物説と環境説に分かれる。
(1)藻食動物説・・・誘引とはなるのだが
藻食動物(特にウニ)による食害説
(2)環境説ー重層的な影響
@海況異変説
黒潮の蛇行の影響によるものや、北方域における流氷の接岸によって起こるとする説
A淡水注入説
大雨などによる淡水の異常な流入によって引き起こされるとする説
B河川氾濫説
沿岸後背地の乱開発や河川改修による土砂の流入で引き起こされるとする説
C栄養塩不足説
栄養塩としての窒素・リン・鉄分などの不足がコンブ資源の減少と関係があるとする説
D異常気象説
冷夏や冬期の温暖化の海洋への影響、それによって海藻類が減少するという説
E水質汚染説
生活用水および産業用水の排出による水質汚染および汚泥の堆積が海藻に影響を与えるという説
F森林の乱伐説
森林が乱伐された結果、豊富にあった河川水が激減し、栄養塩・ミネラルが不足し、海藻の生育を困難にするという説。
上記のように、これらの環境説は互いに重なり合って、それぞれの要因が複合的に影響し合って、磯焼けは起こると考えられる。もちろん、藻食動物説とも重なり合っているだろう。ただ、ウニがいるから磯焼けが起こるのではない。何らかの原因で海藻類がウニに負けてしまうから、磯焼けが起こるものと考えられる。
磯焼け対策にコンブ藻場造成が効果
「磯焼け対策に、コンブ藻場造成が効果がある」という研究が、平成12年度日本水産学会春期大会において北大水産学部より発表され注目された。
「北海道南部域の潮下帯における磯焼けの原因とされる主要無節サンゴモ三種(エゾイシゴロモ、サモアイシゴロモ)の水平分布と、分布を限定する要因を明らかにするため、光合成の温度・光特性を調査した。
その結果、最適光合成温度は、エゾイシゴロモ25℃、サモアイシゴロモ20℃、ミヤベイシゴロモ15℃であり、当海域の主要無節サンゴモ三種の水辺分布を限定する主な原因は、水温であったことが分かった。また、高温に適応しているエゾイシゴロモの分布は、大型海藻の繁茂による光量の低下によっても制限されることがわかった。」
これらの研究結果によって、コンブなどの大型海藻が、磯焼けの原因となるエゾイシゴロモなど無節サンゴモの生育を抑制することがわかってきた。コンブの森づくりが「磯焼け対策」となることが科学的に証明されたことは、今後にとって光明と言えるだろう。
環境と養殖の共生 海藻バイオフィルターとしてのコンブ
栽培により、人類の農業は縄文時代から以来、数千年の歴史の中で、まわりの生態系を守り、再生産の原則を守ったもののみが生き残っている。 一方で、海の養殖の歴史は、いまだ開始されてから100年余りで、本格化されて30年余りしか経過していない。
漁業・養殖の条件は、「再生産」の原則を守ることではじめて成り立つ。つまり「生産とは、一回限りで終了するものではなく、規則正しく繰り返されていかねばならない。」という事実がある。
このような再生産の営みは、農業においては、どのような社会、時代においてもたゆみなく延々と続けられてきた。これからの養殖においても「再生産」の原則こそが生き残るための道となる。
海の環境異変である「赤潮」や「青潮」などのサイクルを遮断するためには、二つのことを実行する必要がある。第一に、最大の元凶である「密殖」をやめ、適正養殖許容量を確実に守ること。第二に、魚介類だけの養殖ではなく、コンブ、ワカメ、ノリなどの海藻類の養殖と組み合わせ、単一養殖から動植物の複合養殖を行うことである。
これらの海藻は、赤潮発生源の最大要因とされる窒素、リン化合物を吸収し、光合成によって酸素を放出する。
大型海藻コンブの養殖は、海の生態系を整えるのに大きな役割を果たすことになる。コンブやアオサなど、栄養塩を除去し水質浄化作用のある海藻水槽を「バイオフィルター」と呼ぶことを提唱したのが、丸山俊朗教授(宮崎大学工学部)である。
下水道処理から栄養塩を除去する目的で、海藻を利用することが提案されたのは1970年台である。海藻バイオフィルターは栄養塩の除去だけでなく、植物プランクトン、魚介類、およびコンブなど海藻の複合養殖が実用段階にきていることを示す。
これまで、海藻バイオフィルターは、閉鎖系循環式システムや、循環ー換水型養殖システム(イスラエル方式)に用いられてきたが、ハマチなどの網イケスの周辺にコンブなどの海藻を養殖すれば大型の海藻フィルターを設置しているのと同じ効果がある。
赤潮を防ぐ
魚介類に大きな影響を及ぼす赤潮は、微生物の異常な増殖による。その微生物の主なものは原生動物と珪藻類の一種である。微生物の異常な増殖の原因は、そのエサである植物プランクトンの異常繁殖に起因する。その異常繁殖は、海水の富栄養化のために水中の窒素やリンなどが過剰になったために起こると考えられる。
富栄養化は、生活排水や産業排水の河川、海への流入、河川水による土砂の流入、魚介類養殖による自家汚染や漁場老化によって促進される。人間の活動が多い地域の海岸域ほど富栄養化が顕著となる。
コンブは、光合成に際して窒素やリンなどの富栄養化のもとになる栄養素を全葉体で吸収し、成長する。
植物プランクトンの現存量は、生産量にしておよそ0.5グラム/u程度であるが、コンブ類は10〜50kg/u、アオサで4.4kg/uである。単位面積当たりでは、アオサで植物プランクトンの90倍、コンブでは2万〜10万倍にも到達する。
大型海藻コンブ藻場造成は、赤潮の発生を阻止できないまも、その発生地域を狭めることが可能と考えられる。
コンブ養殖で海の浄化
中国の大連市におけるコンブ養殖の歴史は70年と世界の中で一番古くから行われている。大連市水産養殖公司は、1998年に、コンブ養殖を行っている地域と、行っていない地域を3海域に分けて、コンブ養殖による海の浄化機能を調査した。
その特徴を以下に記載する。
@酸素の多い海水
溶存酸素は、海水中に7.5mg/?以上(日本の環境基準)であるが、コンブ養殖地帯は、非養殖地帯と比べていずれにおいても溶存酸素が多い。
Aアンモニアの分解
有機態窒素は好気分解によってアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素の順で無機三態窒素に分解していく。コンブ養殖地帯と非養殖地帯を比べるといずれの場合もアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素が低く、日本の環境基準よりも水質が良好である。
Bリンの分解
全リンは、コンブ養殖地帯の場合少なく、、海水の浄化が非常によく行われている。日本の環境基準よりも水質が良好である。
以上のように、コンブを養殖することによって水質が浄化されることが証明されている。
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